【第2回】SiCになると何が嬉しいか?
連載:今さら聞けない入門講座第2回
「SiCになると何が嬉しいか?」
YJC理事 宮代 文夫
1947年、米国ShockleyがGe点接触型トランジスタを発明し、後に接合型も開発し、1956年にノーベル物理学賞を受賞しました。SiトランジスタはTI社とSONYが共に1954年に量産を開始し、SONYは翌1955年にトランジスタ・ラジオを発売しました。そして1970年には民生分野から真空管が姿を消しました。
私は 東芝で最後の受信管生産ラインだった姫路工場のライン撤去の後にTV用SAW(弾性表面波)デバイスの量産ラインを設置する仕事を30歳台半ばに進めていました。単結晶LiTaO3を用いた超小型フィルターです。今や世界中どこのTVにも必ずSAWデバイスが入っています。
このマクラは表題とは関係ありません。つい思い出して横道にそれただけです。さて、そのSiデバイスは大いに発展し、これに勝るものは永久にでないだろうといわれていました。パワーデバイスもSiの独壇場で、従って実装材料もその動作最高温度Tj=175℃止まりで考えればよかったのです。ところが先般の京大・松波名誉教授の講義によりますと、SiCは1953年にLely法による高品質結晶が現われると研究が活発となり、1959年には第1回SiC国際会議が開かれるまでヒートアップしましたが難題が多く、1973年の第3回以降停滞し、ロシアと京大しか残らなかったそうです。
ここで表題に戻りましょう。図に示したのは2013-4/8付の朝日新聞の記事です。一般紙がハイテクをわかりやすく解説した好例ともいえます。まず、パワーデバイスとしてのSiは広く使われているものの、電力損失が大きいことが欠点で、周波数変換や電圧変換関連で年間800億kWの損失が生じていると言われています。この他頻繁な交流↔直流変換で・・・すごいロスが・・・。
これを解決すべく登場したのがSiCというわけです。その根源はSiとSiCの物理定数の差によることは前回述べました。それではSiCにするとどの程度電力損失が少なくなるのでしょうか? Siとの対比で見てみましょう。太陽電池で2%、電気自動車ででも2%程度です。「何だ、たった2%か?」と思われるでしょうが、All SiC化で年間、日本全体の電力損失10%を1~2%に低減できるとの試算があります。原発8~9基分となるのです。
これは嬉しいですよね。どんどん進めればいいじゃないか? と誰しもが思いますよね。ところが問題は製造コストです。第1、単結晶・ウエハが作りにくいのです。Siは直径30cm x 1mの巨大結晶がやすやすと引き上げられるのに対し、SiCは直径15cm x 5cmのものがやっと、という状況です。これはSiCは熱しても融けず、昇華しかしないという性質によります。またダイヤモンドに次ぐ硬さによりスライスも研磨も大変です。
米国では、「SiCのトータルコストはSiの1.5倍までには到達するだろう。しかし肩を並べるには画期的技術が必要」と言っています。