【第6回】メルトダウン原子炉用ロボット開発
連載:今さら聞けない入門講座第6回
「メルトダウン原子炉用ロボット開発」
YJC理事 宮代 文夫
2011年のあの忌まわしい大災害からまもなく丸8年になります。原発先進国でメルトダウンが起きるとは・・・。
昨年の5月に東京でIRID(国際廃炉研究開発機構・アイリッド)の勉強会「燃料デブリ取り出し技術の現状」が開かれました。この勉強会では、現状の進捗状況が克明に紹介されています。これに沿って解説します。
1.原子炉とは?
皆さんは原子炉を見たことがありますか? 私は東芝時代に原子炉用金属材料開発に携わったことがあり、その一環で「柏崎原発」を克明に見たことがあります。まず、格納容器の大きさを実感しましょう。人の出入り口の大きさから実感できるでしょう(これを43m立方の箱で囲む)。
2.福島原発事故とは?
大津波で電源系統がマヒし、制御が効かなくなり、燃料棒高温化が進み、燃料棒、被覆金属管、支持構造物などが熔けて雲古のように炉底に落ちる(これをデブリという)現象(メルトダウン)が起きました。
3.メルトダウンで生じたデブリの調査ロボット
まず、中がどうなっているか調べなくてはなりません。ところが格納容器は極めて頑丈でしかも強烈な放射能で人は近づけません。利用できるのは各種管・配線などを通す100個以上の貫通口です。そこで苦労して「ワカサギ釣り形ロボット」などという奇妙なロボットが開発されました。
4.デブリ取り出しロボット
次はデブリ取り出しロボットです。図3に示したようにデブリの採取装置、作業アーム、移動装置、それに遠隔操作システムが必要になります。監視装置ももちろん。
5.結局、調査・デブリ除去・保守等の3種が必要だ
この種の原発事故処理には炉内調査・デブリ除去のための超小型ロボット以外に、除去物の処理・搬送・支援補助各システムのための大型ロボットが必要となります。何れも耐放射線、安全性、操作性を考えると既存のロボットシステムでは歯が立ちません。図4にはその考え方が示されています。
6.デブリを最終保管場所まで移送する道は遠い
以上のようにデブリを取り出してもそれを「安全な保管場所」まで移送する技術があります。デブリの収納、放射能対策、移送手段、安全管理、・・・とやることは沢山あります。
これを見ますと、新幹線の車両を、特殊トラックでそろりそろりと地上搬送するのとよく似ていますね。新幹線車両は放射線を出しませんから随分ラクですが。
7.今後の動き
ロボットの話は以上ですが、最後に今後の展望に触れておきましょう。「廃炉ビジネス」という言葉があります。廃炉(はいろ)とは、必要なくなった炉を停止させて炉とそれに関連する設備を解体すること、あるいは危険がない程度に整理し、その状態のまま放棄することです。
これとてもメルトダウン炉の処理よりはマシですが、その他はそう変わりはありません。これはどの企業でもやれることではなく、いわば各原子炉は各メーカが独自に設計したと言っても過言ではないので、それぞれに即したロボットが必要となります。つまり、標準化はされていません。
原発事故から8年経ち、国と東電が2011年に発表した「廃炉終了まで40年という工程表」の1/5が過ぎました。廃炉に向けた作業は、進展が見られた部分と遅々として進まない部分に明暗が分かれています。
比較的進んでいるのは原子炉建屋の使用済みプールに残された燃料の搬出で、4号機は終了、3号機は566本の搬出を開始、1,2号機合計1000体余は2023年度からとされています。大問題であった汚染水対策も処理設備と増設タンク、1~4号機の周囲の土壌を凍らせる凍土壁もどうやら役目を果たしつつあります。
しかし、これらは廃炉の準備に過ぎず、デブリの取り出しや建屋の解体といった廃炉作業そのものは本格着手されているとは言い難いですね。
8.再生エネルギーで人類の増加を支えられるか?
少々紙面に余裕があるので、最後にこの問題に言及しておきましょう。これはイントロだけで、本格的検討は今回しません。昨年の2月に国際再生エネルギー機関(180ヵ国加盟、IRENA)が、「世界の再生エネルギー発電コストが7年間で大幅に減少し、太陽光発電は73%、風力発電は23%下落した」と報告しました。
この2発電方式は従来の化石燃料のコストに匹敵するといわれ、更に2020年には2017年のコストのさらに
1/2になるとまで言及しています。日本でも2014年の「エネルギー基本計画」で、再生可能エネルギーの導入を決めています。しかし2030年の電源構成比率の目標では太陽光発電は7%、風力発電は1.7%と、他の先進国に比べて非常に低く、発電コストも下がっていません。
中学校で「地球は太陽の子である」と70年前に習いました。太陽エネルギーが収容人数を決めるのです[完]。