【第11回】「DXについて」

はじめに

2019年秋、Softbank傘下のYahooが、ファッション通販サイトZOZOTOWNを運営するZOZO
を買収したことが大きな話題となりました。Yahooはご存じの通り、収益は広告によるものが主体でしたが、この買収(約4000億円を投じた)により電子商取引(EC)をもう一つの柱にすることを狙ったのです。

図1 孫氏と前沢氏(2019-9/12 記者会見)

図1 孫氏と前沢氏(2019-9/12 記者会見)

さて、このZOZOTOWNについては社長だった前沢氏の某女優との交際とか、宇宙飛行に参加するとか、の話題で持ちきりでしたが、実はこのZOZOの急成長はDXで市場に大きな改革を起こしたのです。ZOZOは若者に人気のあるブランドを多く取りそろえることに徹底的に注力したのです。その結果、試着できないために通販には向かないとされていたアパレル市場において、売り上げを急速に拡大することに成功しました。店舗を見て歩き、購入する若者の行動をZOZOは一変させたのです。「前沢は女と宇宙に夢中になって孫氏にしてやられた」という週刊誌の評もありますが、実は成功したビジネスを頂点で売り抜けて、そのカネで念願の夢を手に入れたニクイ奴、というべきでしょう。YahooのZOZOTOWNも健在です。

 

DXの定義と発祥

DXの発祥は2004年と17年前に遡ります。Sweden・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念です。

DXはDigital Transformationの短縮形です。それでは”DT”じゃないか、といわれそうですね。なぜDX?
英語圏ではTransという接頭辞を省略する際に、”X”と表記することが多いため、TransformationをXと表記したのです。

 

2025年の崖とは?

なかなかDXの説明に入らないのでイライラされている向きもおありでしょうが、もう一つ”崖”の話をしなくてはなりません。これは経済産業省が2018に発表したDXリポートに使われた言葉です。DXとは”デジタル技術を使って企業がビジネスを生み出したり、消費者の生活を向上させたりすること”です。ここでデジタルとはAI, IoT(Internet of Things、モノのインターネット)、ICT(情報通信技術)、クラウド・サービスなどを含んだ総合技術を指します。そんなことは知っているよ、政府だってデジタル庁を作ったではないか、といわれそうですが、実は大多数の企業が現在もっているデジタルの基幹システムやソフトが「時代遅れのレガシー・システム」だということが大問題なのです。詳しくは述べませんが、これらのシステムはCOBOLという古いプログラミング言語で書かれたものが多く、COBOLがわかるエンジニアの多くは2025年までに定年を迎えるため、第一線でシステムを守ってきた人材が大きく不足するという懸念です。

図2 2025年の断崖?
(筆者撮影2005年、Scotland)

2025年には20年以上稼働し続けている旧来のレガシーシステムが国内企業のシステム全体の6割に達すると予測されています。歴史ある大企業が大きく影響を受けそうです。しかも国内企業のIT投資の8割以上がシステムの運用保守に使われているとも述べられています。
さて、この崖を克服するにはどうすればよいでしょう。富士通のHPによると、次の3条件がカギのようです。

(1) システムをクラウドに移行する:これにより、現在ITの運用・保守にかけている金額を抑えられることと、 サーバをクラウドに移行すれば、ハードやソフトの購入の必要がなくなり、利用機能を必要なだけ取り出せばよいことになります。
(2) 全社共通のプラットフォームを作る:大企業では特に問題で、特に銀行のように合併した会社では深刻な問題です。IT部門、営業部門、CS部門それぞれ申告するのではなく、同一のシステムを介して、いつでも見られるようにすべきです。
(3) 当然のことながら、経営者が全社を掌握し、リードしていくことです。

 

企業がDXに注力する理由

これはDXがなぜ脚光を浴びているか? の裏返しです。今までの記述と多少重複する箇所もありますが、3つの理由が挙げられます。

(1) 旧来のデジタル・システムの刷新:旧来のシステムはどちらかというと種々のシステムを抱え込む形で進んできたので、そのまま使い続けるだけでもメンテナンス費用がかかり、まして機能を拡張しようとすると、結構膨大な費用が発生します。一方、最近ではクラウドやIoTなどのデジタル技術は急速に進化しており、自社ですべてを持つことなく比較的安価なシステムが構築できるようになっています。
(2) 消費者の消費活動の変化:「モノ」から「コト」へ、そして「所有」から「共有」へ、と消費者の気持ちの動きが変わってきています。たとえば「カーシェアリング」の登録者が増加しているのはクルマを所有するということに価値を見出すのではなく、クルマを利用することで得られる体験に価値を見出しているからに他なりません。モノからコトへの変換です。私の例では”音楽ビデオ”購入から”You tube視聴 ”へ、でしょうね。1984年、ベルリンフィル・カラヤン指揮・”英雄”とアクセスすれば直ちに鑑賞できますからね。音もまあまあ。
(3) デジタル化による変革:すでにいろいろな分野で「デジタル化による変革」は起っていて、それに対抗するための有効な手段がDXによる施策である、ということです。既存のサービスやビジネスモデルが破壊・再構築されることをDigital Disruptionと呼びますが、これは主として新規参入者によってもたらされます。身近な例としては、①米国ウーバによる「一般人のタクシードライバー登用」、②米国エアB&Bの「一般家庭の空き部屋を旅行者に開放するビジネス」などが目新しいですね。

 

世界を変えたDigital Disruptionの例

最後にOracleが挙げたDDの15例を全部紹介します。全面的に賛同できるものと、どうして?  なぜ?  違うんじゃないか? など議論百出になるかと思います。 また、新しい角度で予測して世の中を変えるシステムを案出してみてはいかがですか。ただ、江戸 → 明治維新でも沢山のDDがあったと思いますが、完璧に廃れたものはないかも知れません。

① デスクトップパソコン ▶ タブレット
② 自動車 ▶ 自動運転車
③ 医者 ▶ スマートヘルス
④ 書類による整理▶データベース管理システム
⑤ 対面 ▶ バーチャルリアリティ
⑥ 手紙 ▶ Eメール
⑦ 本 ▶ e ブック
⑧ 固定電話 ▶ 携帯電話
⑨ 辞書 ▶ サーチ
⑩ 井戸端会議  ▶ SNS
⑪ 百科事典 ▶ Wikipedia
⑫ CD ▶ 音楽配信
⑬ TV ▶ 動画共有サイト
⑭ HDD ▶ クラウドコンピューティング
⑮ お金 ▶ ビットコイン

絶対にDDに代わるものか!! と探してみると、ありました。船、鉄道、飛行機、ロケット、・・・。食事、入浴、
睡眠、・・・。農業、漁業、・・・。プロスポーツ?