【第8回】「5G時代のロボット技術」

連載:今さら聞けない入門講座第8回

「5G時代のロボット技術」

YJC理事 宮代 文夫

この年末年始のニュースのうち、掲題に関係する話題としては「米軍がドローンを使ってイラン高官を殺害し、ホワイトハウスでは、執務室でその様子を見ていた」という報道でした。これは大変ショッキングなニュースですし、ドローンは無人ですから、どうしても遠隔操作によるものと思われますね。
まあ、年明け早々の血なまぐさい話題はともかくとして、年始の新聞各紙には”5G”の文字が躍りました。今回は年始にふさわしい平和目的でどのような進展が見られるかを展望しましょう。
まず、”5G”とは何でしょう? 詳しい解説は方々に出ていますので、ここでは省きますが、要するに第5世代の移動通信方式のことです。今は第3世代がそろそろ終わり、第4世代に入りつつあります。ですから本格的実用はかなり先になります。5Gは3つの大きな特長を持っています。つまり3つの画期的性能上の特徴①一度に大量の端末接続ができる、②通信遅延がほとんどない(0.001秒)、③超高速である(2時間の映画を2秒でダウンロード)の3つです。特に②③をうまく使うとどんな遠隔地でも瞬時の対応が可能となります。
今回はその応用例として(1)遠隔治療・外科手術、(2)ボディシェアリング遠隔操作ロボット、(3)警備ロボットによるイベント整備、(4)未来のスマート工場への適用、(5)自動運転と遠隔運転、などの最新応用事例を述べたいと思います。

 

(1)遠隔外科治療・手術:

これは最もわかりやすい事例で、例えば現在でも(世話にはなりたくありませんが)「前立腺外科手術ロボット”ダビンチ”」などは日本にも結構普及していますが、やはり医師が近辺に待機して指示をしなくてはなりません。ところが5G時代になるとタイムディレイがないので、数百km離れた遠隔地からの指示による手術も可能ですので、現在大都市に集中している装置を全国のしかるべき拠点に設置すればかなり便利になるでしょう。

遠隔手術システム例

信州大のスマート治療室

(2)ボデイシェアリング遠隔操作ロボット:

去る12月、東京ビッグサイトで開催された2019国際ロボット展でH2H社はNTTドコモと共同で「手の動作を検出する技術」と触覚を含む身体感覚を伝達する技術”Body Sharing”を開発し・展示しました。これをNTTドコモの5Gと組み合わせて「遠隔地にいる人の体験をリアルタイムに体験する」ことをめざし、観光分野や建設分野での応用を目的に、今年春にでも商用化を目指すとのことです。例えば南米の珍しいトカゲの皮膚の感触が対応TVの端末で体験できるという訳です。

14-16の自由度をもつ実験例

(3)警備ロボットによるイベント整備:

東京五輪は勿論のこと、各種の催しものにつきものなのは警備です。近頃は大きなイベントや催し物(花火大会など)が「警備員の不足」を理由に中止になることも珍しくありません。
ここで紹介するのは「花園ラグビー場」で行われたセコム、KDDIが行った”スタジアム警備”の実証実験(19-8月)の結果です。大人数の人が集うスポーツや音楽イベントの警備は大変で、事故、観客同士のトラブル、将棋倒し、それにテロ行為など種々のトラブル、・事故が見込まれ、大変です。ここでは①スマートドローン、②警備ロボット、③警備員が装着するカメラの3つが映す映像を連携し、さらにリアルタイムで行動解析するAIも投入し、全体のシステム構成としての5Gの貢献度合いを検証しました。実験は場内のドローン、警備ロボット、警備員カメラの4K画像を5Gアンテナ経由で送り、これをクラウド上にプールし、クラウドを介してオンサイトセンター(クルマの中)に送ります。このセンターのモニターとAI解析を行う高性能PCを備え、監視しながら対策をうち、センターごと現場に急行できる機能を持っています。実験では”もみ合い”をドローンが“人間の異常行為”と判断し、「転倒発見、警備員とロボットは現場に急行せよ」との指令が出て、救護と警備をを行い、被害者からインタービューをとり、犯人を逮捕します。”5Gx4KxAI”により大幅な警備費削減を図ると共に高度な判断と事後処理ができることを実証しました。 この技術は「建機の遠隔操作」にも応用できます。

花園ラグビー場スタンド後方に設置された5Gアンテナ。
一方はグラウンド側、もう一方は場外側へ向いている

(4)未来のスマート工場への適用:

NTTドコモ、ノキアグループ、オムロンの3社が製造現場で5Gを活用した実証実験を行った(2019-9/10)と発表しました。各社の役割はドコモが技術的知見の提供、ノキアは5G基地局を含むプラットフォームの提供、オムロンはファクトリーオートメーション機器(自動搬送ロボット)の提供などとなっています。目標は「レイアウトフリー生産ラインの構築」で、受注機種が変わるごとに、迅速に生産ラインのレイアウト変更を行うことを目的としています。また、5Gを活用した「人と機械の協力による生産性向上や、熟練工の動きを解析し「誰でも熟練工」の実現を図るなどが可能になります。

(5)クルマの自動運転と遠隔運転:

これは日本人の老齢化や、労働人口不足と深く絡んでいる深刻な課題です。まず、トラック、宅配運転手の深刻な不足状況ですが、ネット上の商品購入・配達が激増している現在、これは喫緊の課題です。
まず、長距離トラックの自動運転。東名・名神等の高速道路では自動運転トラックによる24H自動走行、宅配でも小型車両による自動配送などが期待されます。尤も配達の際の受け渡し、物流倉庫からの自動積み込み、等も自動化しなくてはなりません。また、買い物に行けない在宅高齢者向けには超小型コミュニティーカーを各家庭に配備して、登録した行き先(病院、駅、スーパーマーケット等)のボタンさえ押せば自動的に目的地との往復ができるようにするなど、5Gが解決すべき課題は多いのです。勿論受け入れ側の病院、駅、スーパーもこれに合わせた変革が必要なことは言うまでもありません。

コミュニティカーの実験例

【あとがき】5G+ロボット技術はまだ始まったばかりです。これからどんな奇想天外なものが出現するかたのしみです。しかし平和利用に徹してもらいたいですね。冒頭のようなアプローチは御免です。