【第3回】SiC、なぜ鉄道応用が先行したか?

連載:今さら聞けない入門講座第3回

「SiC、なぜ鉄道応用が先行したか?」

YJC理事 宮代 文夫

SiCの応用はSiの代替として、そのメリットが生かさる用途から順にされてきています。今回はその理由を考えてみましょう。まず、答えから披露しましょう。

(1)コンバータ用パワー半導体一式はシステム・キーコンポーネントであり、汎用部品でないから。
(2)鉄道車両はロット生産であるから。
(3)独特のニーズがあり、特長を出しやすいから。

まだまだ理由はありますが、この3つが重要です。
SiCの最大のニーズは各種市場調査を見ても明らかなようにクルマです。特に大衆車(リーフやプリウス)のEV, HEVに搭載されれば世界中に普及し、その売上高は半端ではなく世界中の企業が潤うことになりSiCの名声も高まることでしょう。ところが予想に反し、2014年か、2018年か、2020年か、と実現時期が定まりません。これは車の場合、SiCモジュールが汎用部品扱いになるからです。汎用部品の具備条件は①全体システム構成から見て妥当な価格である、②生産システムが確立しており、複数メーカから容易に購入できる、③信頼性・安全性が保証されている、などです。何しろ流通の量が多く、ユーザは大衆です。何かあれば「タカタのエアバック」のような事態になってしまいます。
その点鉄道はプロが運転する、レールの上を走っている、各種安全装置がコンピュータ管理で二重、三重に構築されている、等クルマに比べ安全性は格段に高いといえましょう。
さて、それでは鉄道応用の答を検証しましょう。

 

(1) SiCダイオード、トランジスタはSiC加工の困難さ、生産歩留まりの低さ、標準化の未整備などの理由からまだ極めて高価です。米国の代表的な開発PJであるPower AMERICAは
「10年後にはSiデバイスの1.5倍程度までは下がるだろう」と予測しています。しかし、これを待っていたのではいつまでもクルマに搭載されません。多分、Olympic Yearには景気づけも兼ねて・・・となるでしょう。
鉄道車両の場合はどうでしょう。最もわかりやすいのは地下鉄・銀座線の採用例でしょう。これは昔掘られた狭いトンネルの中を今も走行していますから、快適、加速、高効率化などを達成しようとすると乗客の乗る空間は確保するとして、必要な機器類は床下と車輪構造の間に押し込めるしかありません。(下図)

コストは高くても「インバータの体積が1/5になる」と聞くと「じゃあやむを得ませんね」となります。一方新幹線はJRが高運賃で潤っているためか高性能化、見た目サービスからなのか判然としませんが、次から次へとデザインもあでやかな新車両を惜しみなく投入しています。ドイツ国鉄の頑固なまでの変わらぬデザインに比べ何と斬新でしょう。現在東海道新幹線の主力であるN-700系のインバータを検討しています。
これには1編成当り変圧器4台、コンバータ類14台、モータ56台等が搭載されていますが、SiCを導入すると何と「総重量で1.75トンも軽量化される」というのが最大のメリットだそうです(次ページ図参照)。それはともかくとして、もっと身近な搭載例があります。それは小田急線の通勤電車1000型で、フルSiCインバータを搭載した通勤電車が毎日首都圏を走っています。