【第4回】米国のSiC-PJ: Power AMERICA

連載:今さら聞けない入門講座第4回

「米国のSiC-PJ: Power AMERICA」

YJC理事 宮代 文夫

 SiCは加工が大変な上、使い勝手もSi半導体とかなり異なりますから、一企業、一大学ではなかなか手に負えません。そこで産学官が連携してこれに取り組む、というPJ方式が盛んです。中でも米国、日本、欧州、それに今般政府が乗り出した中国のPJ、が有名です。そこで今回はこのうちの一つ、米国のPJ, Power AMERICAを紹介しましょう。

【Power AMERICAの誕生】

何事も派手好きな米国ですが、われわれもこれには驚きました。3年前の正月早々、何とホワイトハウス(オバマ大統領)が「モノづくり革命」と銘打って何と、「3DプリンターとWBG半導体応用」を掲げて「やろうぜ!!」と気勢をあげたのです。そしてノースカロライナ州立大に拠点を置く大PJを宣言しました。いわゆる名門大学でなくNCです。3Dプリンタの方は同時に「小学校500校に一台ずつ3Dプリンタを支給する、これで面白いものを創れ」ときました。何でこの2テーマを大統領が・・・? と話題になりましたがKAMOME-PJ推進中のわれわれにとっては追い風・朗報? でした。

【Power AMERICAがめざすもの】

さて、この大PJで何をやろうとしているのでしょう。これは表紙に明記されています。①産業用モータ、②民生エレクトロニクス(車?)とデータセンタ、③太陽光発電と風力発電、の3つです。いずれもインバータ・モジュールがキーです。それぞれ100万、130万、70万世帯分の省電力が目標とうたっています。

 

【実装技術を重視している】

注力する技術としてウエハから市場開拓まで重要項目を挙げていますが、何と”Packaging”が真ん中に位置づけされているではありませんか。うれしいですね。

 

【コスト削減目標】

「SiCが優れていることはよくわかっている。しかし従来のSiに比べ高いね。」と評されています。このPJではそういう批判を受け止めて、到達コスト目標値を打ち出しています。まず(次ページ図参照)、10年後のコスト目標をSiの1.5倍に設定しています。そしてそこまで到達するための3年後、5年後の途中目標を示し、Siに及ばない0. 5倍分は「新技術で突破すればいいではないか!!」と突き放しています。こういう「楽観的で強気の予測」は私も大好きです。信じれば必ず開けます。ともかく最終目標=Goal にはこうあって欲しいという看板をかかげることがとても重要です。初めから10年後にコストもSi並みに、などというムリ筋はNGです。

 

【Power AMERICAの目標】

次図に4つの目標が掲げられています。

(1)R&Dとデモンストレーション:

R&Dの重要性はいわずもがなですが、米国のよいところは開発初期に必ず「デモ・システムを組んでテストをしてみる」を行うことです。そして一応の評価をして「役立ちそうか、ダメなのか」の見通しをつける、という習慣があります。

(2)実用化加速と社会実装:

つぎは市場の要求に応えられるかの実験です。このごろ「社会実装」という言葉をよく耳にしますね。

(3)人材教育:

私が感心しているのはここです。当面役立ちそうな人々への研修や実習はどこでも行っていますが、では小・中学校にまで行っていますか? というとそこまでは及んでいないのが普通の国の対応です。ところが欧米では先に述べた3Dプリンタの例のように幼少時にまでさかのぼって教育しようと心がけています。

(4)製造・実装・量試:

この分野でも米国は新しい試みを提案しました。それは製造部門を持たない革新的SiC使用システムを考え出すファブレスチーム・企業のために試作・製造ファウンドリーを提供しようという提案です。かつてMEMSなどで試みられたアレです。

 

【どんな企業・団体が加盟しているか】

下図に主な加盟(協賛)企業を紹介しています。もちろんマネジメントは主要米国大学・政府機関・研究所で固めており、指導的役割はNC大、CREEおよびWolfspeed社などで固めています。しかしライバルとなる欧・日の企業名も見えており、中にはなぜ参画? と疑問符がつく企業も含まれています。ExxonMobil, CISCO, P&Gなどです。航空会社Delta社などは「電動化航空機」の構想がありますし、IoTの旗手の一つであるCISCO社もデータセンタの省エネ化の効果が大きいなど理解はできますが・・・。

以上、Power AMERICAの概略をご説明しましたが、実は最近下図のようにGEが中心となって別のSiC-PJが設立されました。どういう最終意図があるかわかりません。超高圧電力搬送関連か?

 

以上は、12月のNEDO ADコースで話したばかりの最新の情報です。次回は欧州のPJ事情を取り上げます。中国の動きが活発ならば、それが先かしら?
【第4回 完】