【第7回】「食品加工ロボット」開発の動向

連載:今さら聞けない入門講座第7回

「食品加工ロボット」開発の動向

YJC理事 宮代 文夫

さて、今回は食品加工用ロボットについて述べたい。食品製造特有の問題は大きく3つある。①形状や品質が不ぞろいな原料を扱うこと、②消費者の嗜好の変化
や流行に応じて生産品目を変更するため、生産ラインや装置の入れ替え、生産条件の再設定が頻繁に起こること、③徹底した衛生管理が求められること、中でも人間は最大の汚染源だ。

図1 餃子自動包みロボット(Denso)

最初に紹介するのは「餃子包みロボット」である。しかも専用機でなく、Densoの小型ロボットCOBOTTAを用いたものだ。餃子は私も時々作るが、肉、野菜、薬
味をよく混ぜてペースト状になったものを円形の「餃子の皮」の上に適量とり、半分に折り、半円の部分に水をつけて襞状に「封止」すれば完了する。ところが皮が正確に同寸法なのに具の量がマチマチである、水の量も一定でない、等なかなか技術が必要である。

 

次に紹介するのは、福井県に本拠がある(株)コバードという和菓子・洋菓子・パン等を作る、食品ロボットの総合メーカである。

図2 切り口が独特な新バウムクーヘンと製造機(下)

全自動・どら焼き機、きんつば焼き機、独創バウムクーヘン焼き機、等々凄いラインアップである。その中から、バームクーヘン焼機を紹介しよう。長い金属棒を回しながらケーキ生地を滴下させ、ヒータで焼いていく、というやつである。これを同社では原理は同じながら、中心の形状が円の他に四角、五角、六角、ハート、花、などにでき、また切り口にいろいろな添加物を入れられるようなマシンを完成させた。

「大福」、「饅頭」、アンパンなどは手先の器用な職人の手で生地に次々とやわらかい餡を包んでいく姿が浮かぶが、これも同社では「マジックハンド・シリーズ」としてロボット化した。マジックハンドは、丸いシート生地の中央に「あん」を充填し、包あんするという人間の手の指で丸く包むのと同じで、かつ生地が傷まない包あんシステムを搭載している。餡やクリームだけでなくいろいろな固形物(栗、卵、レーズン、ソーセージ等)も同時に包める。

図3 マジックハンドシリーズ(広義の包餡機)

このコンパクトな単能機でも、一時間に800個の生産が可能で、生地50-80g、あん20-80gまで可能で、これ一台あれば「元祖・温泉饅頭屋」は開業できる。
さて、菓子類を離れて、難物の食肉加工に目を向けよう。これは4K職場の典型のような場であったが、最近はロボット化も進んでいる。大型の牛、豚等から鶏まで種々あるが、まず、鶏から考えてみよう。専業メーカの前川製作所によると、システム構築としては下記のようになる。

図4 食肉ロボットの加工フロー

これを網羅した「チキントータルシステム」という、チキン処理トータルシステムがある。何といっても複雑な形状の「骨抜き」のシステムがカギで、「もも肉」、「胸肉」に分けて解体を進め、計量・包装システムまで内蔵したロボットとなっており、農場から入荷した鶏が完全処理されてトレイに入った価格付の「食肉パック」となって出てくるところまで自動化されている。

大型食肉のうち、豚肉についてみてみよう。前述の鶏肉用は「トリダス」と称されているが、この場合は「ハムダス」と呼ばれるロボットシステムで、やはり「脱骨技術」がカギとなっている。豚は骨格が大きく、分厚い肉の中に隠れている骨の曲がり具合、サイズ、凹凸など個体差が大きく、従来、経験に基づくナイフの熟練度に頼ってきたものである。これをロボット化するために、①肉の中の骨の座標を正確に測定する、②複雑な骨の形状に刃物を追随させる、③強い筋をカットする、④残肉量を極少にする、などを目的に、X線ラインセンサ、多関節ロボット、エンドエフェクタによる自由度をもったナイフシステムなどを盛り込んだ。

図5 豚肉除骨加工装置

さらに、食肉を吊り下げた状態で加工することで食肉とまな板の接触がなくなるため、衛生的な処理が行えることも特徴である。これはもちろん牛肉にも応用され、
また読者諸氏が心配されるような「屠畜」の方法についても動物の心理にも配慮した方法がとられていることも申し添えたい。

以上、和洋菓子や食肉用ロボットの現状を紹介したが、マグロを初めとした魚部門の加工ロボットはまだ出てきていない。これは魚河岸、すし屋等の職人の「包丁さばき」に強く依存している日本人にはまだ受け入れられない状況にあるから? かもしれない。
また、近年は食の安全に対する消費者の意識が高まっていることに加えて、食品の製造における安全・衛生管理手法「HACCP・危害分析、重要管理点」の導入を義務づける動きがあることから、衛生管理の自動化・効率化も強く求められている。
興味のある方は「FOOMA JAPAN(国際食品工業展)」をぜひご覧になることをお勧めする。ここにはあらゅる食品の加工を引き受けるロボットがズラリと並んでおり、なかなか壮観であり、とても興味深い。試食の機会もあるので、私と並んで食への関心が強いI氏などには一見をお勧めしたい。

なお、食品ロボットはどんな精巧なものでも機械加工ロボットに比べ、1ケタ価格が安いのも特徴で、これから参入するには頭に入れておこう