【第13回】「メタバースは普及するか?」

1.メタバースとは

皆様は「あつまれどうぶつの森」というゲームをご存じですか? TVゲームの中で他の人と会話したり取引できるものです。これが「メタバースの走りである」という人もいます。実は私もそうとは知らず、数年前に孫に誕生日プレゼントし、この正月に達者な孫と、初めて遊んでみました。   

それはそうとして、メタバースはPC上の仮想空間(グラフィックスによる自然や街がある)の中で自分の分身であるアバター(マンガチックな人間型キャラクター)が自由に歩き回り、他人が操縦するアバターと会話もできる、という仕組みです。前述のゲーム等では、PCを操作する人は画面の画面の中の他人と会話したりできますが、PCの画面から目を離すと、もう自分の居場所の光景を見ることになり、たちまち現実に引き戻されます。ところがHMD(ヘッドマウントディスプレイ、まだ数万円もする高価な機器)というゴーグルのようなデバイスでVR(Virtual Reality、仮想現実)中に入り込むことができ、仮想空間に身を置くことができ、メタバースを体験できることになります。

2.メタバース・ブーム

図1に示すように、昨年後半になってから連日のようにメタバースという文字が新聞紙上を賑わせました(日経などは半年で10回以上)。それに週刊誌、雑誌などもこぞって取り上げ、CEATECのような固い展示会でも特設コーナを設ける、という過熱ぶりです。どうしてこんなブームになったのでしょう? その源は2021/10にフェイスブック社がメタ・プラットフォーム社に社名変更して以来、とされています。同社がホライズン・ワールドというプラットフォームを運営し、それが米国をはじめ数か国でブームになってきた(日本ではまだ)と言われています。ところで総務省が、図2のようなメタバース市場予測を出しました。

驚くことに、2022年に6.2兆円、2030年にはその11倍の89兆円という市場規模になるというのです。これはとてつもない数字です。さすがに扱っている研究会も慌てて10、11月で「どんな市場内容を想定しているのか調べよ」と募集をかけました。

3.メタバースの応用分野

例えば、住宅やマンションの取引を考えてみましょう。友人を誘って物件を訪ねるとします。応対・案内役は不動産業者担当するわけですが、”物件”は3Dカメラによる詳細な画面や設計時の構造図も用意されているでしょうし、自分と友人がどんな質問をしようと即座に細かい部分や全体構造などを示してもらえるでしょう。友人と意見交換しながら進められるので、シャイな人でもとことん質問ができるメリットがあります。メタバースは街を作り出すことができ、例としては”バーチャル渋谷”が有名で、途中ハロウインのイベントなども経験でき、仮想空間で渋谷の街を楽しむことができるようです。海外旅行なども行かなくても現地の状況を楽しむことができ、移動が難しい病人や障碍者の方々にとっても朗報となるでしょう。ただし、”食事の楽しみ”などは現地でないとムリでしょうが。

図3にメタバース総合展(幕張メッセ)の様子を示しましたが、いろいろな用途が示されていてなかなか全容はつかみにくいです。そこでざっと”メタバースで何ができるかを考えてみましょう。

【ショッピング】
バーチャル・ショップとアバターのスタッフをそろえれば始められます。凸版印刷はバーチャルショッピングモールアプリ「メタバ」を開発しました。リアル商品もさることながら、スタフのアバターが着るファッションや靴、アクセサリーさえも“商品”になるそうです。

【エンターテイメント】
これは最もわかりやすいジャンルです。例えば①3Dゲーム、②映画、③音楽ライブ、④テーマパーク、等です。これらは既存のインフラが根底から覆ってしまうことも考えられるので、危機感を感じている団体・企業もあるでしょう。

【暮らし】
これもいろいろ考えられますが、①不動産の売買、②家具のコーディネート、③ニュースや広告、などがあります。①は特に向いています。物件を3次元表示し、案内役と顧客(友人同伴)をアバターにすれば、遠慮のない問答ができてうまく事が運ぶでしょう。

【働く・経済】
①仮想空間で会議:これは会議室の用意も要らないし、会議室まで出向く必要もないので歓迎されるでしょう。②NFT(非代替性トークン)活用:ちょっと難しいのですが NFTとは、「偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ」のこと。暗号資産(仮想通貨)と同じく、ブロックチェーン上で発行および取引されます。従来、デジタルデータは容易にコピー・改ざんができるため、現物の宝石や絵画などのような資産価値があるとはみなされませんでした。

「IT,AIの轍を踏まないか?」

メタバースに関する本は多いのですが、私の読んだ本を紹介しましょう。「メタバースでできる100のこと」(宝島社)は絵や写真も豊富で、ともかくどんなことができるかを具体的に挙げていてわかりやすい入門編です。

「メタバースと経済の未来」(井上智洋・文春新書)は入門から本格的普及が予測される2030年までを「メタバース大好き」という視点からでなく、新進経済学者の辛辣な視点も踏まえて論じていて面白いです。その後、資本主義はどう変わっていくか、という私のような理系人間にとっては難しい展開になっていきますが、最終章で「知的好奇心の低い日本」がどうしたらメタバース先進国になれるかを心配しながら論じています。蔓延する”デフレマインド”のためITやAIで遅れをとっている日本を憂いています(マンガ大国でもあるし・・・今度は?)。一読をお勧めします。

【蛇足】

将来、メタバースが発達、普及した暁には、井上氏は、現在のPCゲームオタクのように、「メタバース漬けの人々」の予言をしています。つまり、メタバースが普及した未来では、貧しいメタバース利用者専用のアパートが建設される。地方の空き家を潰してアパートにし、個室としてカプセルホテルのように食べて寝るだけのスペース(と言ってもひとたびHMDを着ければもうそこは豪邸)があり、シャワーや風呂は共用とする。そこでVRデバイスを装着して割の良い仕事をちょっとして、後は遊んで暮らす。   これは理想郷かしら? 世紀末かしら? それはともかく、動けない高齢者等にとっては福音でありましょう。