【第1回】パワーエレクトロニクスとは何か?
連載:今さら聞けない入門講座第1回
「パワーエレクトロニクスとは何か?」
YJC理事 宮代 文夫
この表題の答えをまず示しましょう。実は電気系卒業生の皆さんにぶつけてもなかなかズバリ正解はありません。答えは「半導体スイッチ素子を用いて電力変換を行うこと」です。つまり、パワーエレクトロニクス素子(トランジスタ、ダイオード) の主な役目はON-OFFの働きをするスイッチに過ぎない、と理解しておきましょう。 なお、まだパワーICやパワーLSIは存在しない、という認識で結構です。
では電力変換とは何でしょう。簡単にいいますと直流と交流の相互変換です。これは全部の場合を想定しても次の4通りしかありません。
・AC➤DCはおなじみの「整流」ですね
・DC➤ACは逆変換、即ち「インバータ」です
しかし、このうちわかりにくいのはAC-AC変換ですね。通常は「変圧器を用いれば簡単ではないか?」と思われるでしょう。ところが電力搬送システムで大切なのは単に電圧変換だけでなく周波数変換(50/60Hzなど)も行う必要があるため、いったんDCに変換した後電圧・周波数変換を行い、再びACに変換するという手段をとっているのです。面倒なことをしていますね。
それでは、電力変換がそれほど大切なのでしょうか。それには電力の発生から消費までのシステムを理解しなくてはなりません。日本では交流で発送電が行われているため、至るところで電力変換が行われています。蒸気タービンの大型発電機での発電が6600Vだとすると(電力搬送は高電圧・低電流の方が損失が少ないので)、例えば電鉄は3300V、産業用モータは三相200V、家庭用は単相100Vという供給をしなくてはなりません。この電力変換時に元の電力の質を損なってはなりません。つまり、電圧・電流・位相・周波数・さらに交流波形 などをきちんとコントロールすることがパワーエレクトロニクスの骨子です。もっと言えば先進国の証といってもいいでしょう。「いつも電圧が±5%位は変動するよ」なんていう国は論外です。質の高い電力、純度の良い水道・ガス、高品位な通信・電波がきちんと供給されている日本は何と恵まれていることでしょう。
そしてこの電力変換の質を司る重要な機器がインバータ、コンバータです。ここで大切なのは損失です。何しろ送電系統に直列に接続されますのでこれがモロに効きます。97%が98%になるだけでも大きいのです。 今回はここまで。